四聖獣ライフ
「なにこれ! かっこいい! これがこの国の服かー!」
制服のスカートをはためかせくるくる回りながら、赤い髪の少女は楽しそうに声を上げている。
「このリボンもおしゃれですね〜」
リボンを指でなでながら、青い髪の少女はうれしそうに体をよじる。
「……」
スカートの裾をぎゅっと握りながら、白い髪の少女はうつむいている。
「とりあえず無事に事は進んだみたいだな」
自分の格好には目もくれずまっすぐ僕を見ながら、黒い髪の少女は無表情で僕への言葉を発する。
…………そして俺は。
「うおおおおお!? だ、だ、だれ?」
自分の部屋の中で四人の女性を目の前に、無様に尻餅をついた。
◇
「つまり、お前らは『あの』四聖獣ってわけか」
「そうだ、神石仏(かみいしほとけ)君」
黒髪の子――玄武はうなずいた。
「……」
なんなんだろう……。なんつーか、その、つまり――。
「そんなの信じられるかっていうかそこの赤毛! キャッキャキャッキャうるせえよ!
今大事な話してんの! お前らの話なんだからちょっとはなんかこう……協力しろよ! とりあえず、とりあえずこのままだと母ちゃんが来るから静かにしろ頼むから!」
「キャッキャ」
「この赤毛野郎……。人をなめてるな?」
「赤毛じゃないよ、朱雀(すざく)だよ!」
(あぁ、それにしてもおなかすいたなぁ)
「わかってるよ! さっき聞いたよ! 聞いた上で言ってんだよ!」
「でも久しぶりにこちらに降りてきたのでテンションだだ上がりなのです〜」
スカートをばたばたさせながら青髪の青龍は言う。
「青龍……さん。でもほら、近所の迷惑にもなりますし」
「ああー、なんで青龍だけさんづけなんだよ! あたしにもさんづけしろ!」
「うるせー赤毛! お前なんて名前で呼ぶ価値もないわ!」
「なんだと! ……もうおこったぞ」
朱雀は目を閉じ、手を力強く握った。その姿は何か始まるような物々しい雰囲気を感じさせた。
「はぁぁぁぁぁああ……」
「え? な……」
息を吐く朱雀の周りの空間が揺れている。まるで陽炎のように。
俺は説明を求めるために玄武に目配せした。
「私たちは、それぞれ特殊な力を少しだけ残してこの世界に降り立っている。例えば朱雀なら…………『灼熱』」
「灼熱!?」
「ぁぁぁあああああ!」
(早く終わらせてご飯にしたいなぁ)
朱雀の周りを陽炎……いや、炎のような赤色の何かが包んでいる。そしてそれと同時に、部屋の温度が――今は十二月だというのに、真夏のように暑くなっている。
「うおぉぉぉおおお!」
もし言葉通りなら、この建物程度は跡形もなく燃え尽きるっ!
「や、やめろおおぉおぉお!」
「ふああああああああああ!」
力を全部解放するように、顔を上げ、天に向かい叫ぶ朱雀。これが、これが四聖獣の力……。
……だがしかし。
「暑い。……けど、熱くはない?」
部屋は常夏だ。でも、逆にそれ以上熱くはならない。朱雀の体の周りに見えている炎のように、焼け焦げるまでの温度には到底足らない。
「ふ……あ……あぁぁ」
「なんか……へばってる?」
「『少しだけ』と言った。実際に使える力はせいぜいこんなものだ。そうじゃないと万物に迷惑をかけるからな」
なんか都合がいいというか、適当というか、そんな微妙なところだけ配慮するならいっそのこと無い方がいいんじゃ……。
「はぁ……ひぃ……ひぃ」
校内マラソンでゴール寸前の小学生のような顔をしてる……。
なんかあの赤毛ちょっとかわいそうになってきた……なんてことはない。
「青龍」
「はい〜」
玄武の呼びかけに青龍さんは待ってましたと言わんばかりに返事をすると、自分の目の前で手を合わせ祈るような姿になった。
「……散」
(やっとおわるかな?)
そう言った青龍さんの周りに白い煙が現れ、部屋中を覆った。肌に触れた感触からするとどうやら冷たい水……つまり霧のようだ。部屋を覆った霧は瞬く間に気温を下げた。
玄武の話が本当なら、この霧も元は凄い力なのかも知れない。
「これも……」
「ああ、彼女の元の力は『凍結』だ。ちなみに私の力は『剛化』。ちょっとこれに触れてみて欲しい」
玄武さんは丸めたティッシュを手にしながらフッと一呼吸したあと僕にそれを渡した。
「おお……硬い!」
「このぐらいの大きさの物が精一杯だがな」
「はぁっ……はぁっ……ど、どうだ……はぁ」
「あ…………あぁ」
忘れてた。肩を上下させ息を切らしながらも朱雀がどうだ驚いたかと言わんばかりの自信顔でこちらを見ていた。だが残念ながら現象が地味すぎて俺は友人から凄い凄いと煽られて見た写真が意外にしょぼかったときのような何とも言えない顔をすることしかできなかった。
パチンコの看板の『パ』が無いだけの写真を今のご時世見せられてもねぇ……。
そうでしょ?
「な、なんだ……その顔……はぁ……はぁっ」
「あ、その……すまん。……がんばってたのに」
「そんな目で……みるなぁ……はぁ……ふぅ」
「とりあえずこれで我々が少なくとも『普通』じゃないのは感じてくれたか?」
「ああ、文字通り肌で感じたよ。温度で」
「お願いがあるのです。わたくしたちをここに住まわせてもらえないでしょうか?」
「え!?」
「私たちは今回君を依り代に形現(ぎょうげん)――つまりこの世界に降り立ったわけだが、毎回宿をどうするかが一番の脳煩いなのだ」
(何が食べられるか、楽しみ♪)
「そんなこと言われてもなぁ」
普通に困るわそんなの。
いくら自分が寺の子だっていっても駆け込み寺よろしくできるわけじゃないし。だいたい母ちゃんが何というか。
……そう、家は寺をやっている。神社ではない。後を継ぐ気はないのに坊主にはさせられている。こんな頭だから変なのを呼び込んだに違いない。いっそ植毛してえ。
「かあちゃ……母親に聞いてみないと何とも」
(『お母さん』がいる!? それなら味は保証できるわね)
「あの……」
「なんですか〜?」
「さっきからちょこちょこ聞こえてるこの声は……なんですか?」
聞こえるというか頭の中に直接言われているような……。
「あ〜。白虎ちゃんの伝心(でんしん)ですね〜」
「でんしん?」
「てれぱしー? だと思っていた頂ければ〜」
「テレパシー? ――なるほど、それが彼女の力か」
「いえいえ、てれぱしーは特技みたいな物です。彼女の力は「身体強化」ですわね」
そうなのか。でもどちらにしてもテレパシーなんてわざわざそんな技みたいなもの使わなくても言ってくれれば飯ぐらいは何とか……。
「……」
白虎に顔を向けると恥ずかしそうに下を向いた。なんというか、容姿的にも他の三人よりも幼く見えるし、仕草がかわいくて思わず白虎ちゃんとちゃん付けしたくなる。
お腹をすかせた猫にご飯を上げたい感じだ。
「あたしも疲れたし腹減った! 飯! 飯! ていうか暑くて喉渇いた!」
「うるせぇ赤毛トイレでも行って勝手に飲んでろ」
「なんだとぉ! お前さっきからあたしにだけ冷たくないか! 四聖獣を敬え!」
「だから静かにしろって母ちゃんが来るだろ!」
その時部屋のドアが激しくたたかれた。どうやらもう手遅れらしい……。
「ほとけ! お前さっきからうるさいよ! 朝飯ぬ……ん? どなた……かしら」
この状況をどう説明するべきか。大事な朝飯のことより重要な案件ができてしまった。
「残り物しかないけどドンドン食べてねみんな!」
にこにこ顔で母ちゃんは言う。
「お母ちゃんありがとな! ガツガツガツ」
「おいしいですお母様、ありがとうございます〜」
「もくもくもく(この家のご飯おいしいおいしい)」
「ふむ。素朴だがすっと体にしみこむような味だ。これがこの家のお袋の味か」
「はは、みんなありがとね! このうすら坊主はそんなこと言わないからあたしゃ涙が出そうだわ」
「……言ってろ。あと坊主を強制してるのはお前だ」
自分からやらせといてうすら呼ばわりはあまりにも身勝手だ。茶髪ロン毛にしてやろうか。
「しかし預けられていた施設が火事で今は家がない。身寄りもないとはねぇ。こんなかわいい子たちを神様はどうして不幸にするんだろうねぇ」
……いや、こいつらむしろその神に近い存在ですわ。ていうか施設育ちとかちょっと無理があるだろ。施設が燃えたとか最近そんな事件なかったし。
「はい……あたしたち姉妹は……パクパク……ただ仲良く生きたいだけなんです……よよよ。ガツガツ」
うぜぇ……。つーか食いながらしゃべんな行儀悪いな赤毛のくせに。いや、毛の色関係ないけど。…………いいなぁ髪の毛があって。
「そうかいそうかい……」
嘘泣きにもらい泣きする自分の母親を見るのはつらい。
「お母さん。次の住まいが見つかるまででいい。私たちをここに置かせては頂けないだろうか。こんなみすぼらしい私たちを受け入れてくれる住まいをいつか見つけるから、どうか」
「うぅ……こんなクソ坊主とその母親が居る家でもいいなら、いつまでも居ていいのよ」
「クソ坊主さんにも迷惑がかからないようにしますので〜」
「えっ!?」
今クソって言った! 一番言わなそうだと思ってた人がクソって言った!!! 俺は……クソなのか?
「……おかわり」
「はいはい。白虎ちゃんはよく食べるわねえ」
……ほんとうだ。もうご飯は三杯目だ。その小さな体のどこに入っているのか。これも四聖獣のなせる技か……なんてな。
ていうか四人も一気に増えたせいでマジでそろそろ家の食料が無くなる。こりゃ帰りは買い出しだなぁ。
「ところで仏君。君は学生なのか?」
「おう。青春真っ盛りの高二だぜ」
「野球部でもないのに坊主の青春ってなんか笑えます〜」
「……」
野球部でないのをなぜ知っているのかっていう前に、このふわふわ女性は見かけによらず毒舌だと言うことを今断定した。そう、坊主だからといって見かけで野球部と思ってはいけない。打つのはボールじゃなくて木魚である。いや俺後継がないから打たないけど。「ふむ。ではこの後は学校に行くのだな?」
「そうだ。学校に行っている間俺の部屋を荒らすなよ」
エロいアレとかエロいソレとか見つかったら事だ。というか、一応こいつら女だし恥ずかしい。
「それなら問題はない。安心したまえ」
玄武はきっと常識人だ。常識という安心感が、今はとてもうれしい……。
「……おかわり」
「あたしもおかわり!」
「残念ながらお前らが食う米はもう無ぇよ」
「米がないならパンを食べればいいのさ! お母ちゃんよろしく!」
「はいはい。今取ってくるから待ってなね」
奴隷のようにパンを献上する母を見るのはつらい……。
「何でお前らがついてくるんだ?」
色々あったが何とか普通の生活に戻そうと張り切って家を出たはずだったのに……。
「登校するからに決まってるだろエロ坊主」
なんとなくわかっていた。うちの学校の制服で現れた時から……。普通はいきなり登校なんて無理だろうがどうせなにか事前に根回ししてるに違いない。だって聖獣だし。
「うるさい黙れ! エロって言うな!」
男子高校生はみんなエロいんだよ! エロの使徒だよ! 自己発電する分むしろエロよりエコだ! エロコ!
「エロさん。とりあえずスカトロはどん引きです〜。死んだ方がいいです〜」
「いやあれは……。俺じゃなくて友達の……」
エロいアレとかソレはそっこーで見つかってしまった。……青龍さんに。個人の名誉を守るために言うが本当にスカトロの趣味はないです。
「まあ人の性癖に難癖をつけるのはやめよう青龍。自分と違う人がいるから人間はおもしろいのだか……ひゃ!」
玄武さんは何も転がってないはずの地面につまずいて転んだ。パンツがこっちに丸見えである。
あれは…………黒! なんという僥倖! 神様ありがとう、アーメン。
「玄武ちゃんにおいたしたら殺しますよクズ坊主〜」
ひええええええええええ! こええこの人こええええええ!
青龍さんの前では仏であろうと俺は決めた。
「イタタ……ふぅ。とりあえず、私達は君と同じ学校に転校することになった。よろしく頼む」
平静を装うとする玄武かわいい。これは……ドジッ子か?
クールビューティー時々子供……。俺の中の何かの価値観が変わった気がした。
……そういえば、白虎ちゃんは?
辺りを見回す。
すると、白虎ちゃんは信号のところで老人に話しかけられながらパンのようなものをぱくついていた。そのパンは……きっと老人からもらったんだろうなぁ。知らない人からものを云々の前にさっきあれほど食べてまだ食べるのかよ……と思った。とりあえず後で注意しておこうと思う。
◇
いきなり出会った少女たち。
そして学校に登校。
この要素がそろった後、『学校のホームルームで何が起こるか』という問いに俺が答えられる解答は簡単すぎるだろう。もうテンプレートと化していてむしろ必要要素だ。これが起こらないと話が進まないレベル。
担任は開口一番言った。
「隣のクラスに転校生が入ったそうだ」
「隣かよっ!!!」
立ち上がり叫んだ俺をみんながびっくりした表情で見る。そのあと、なんだコイツ? とクラスメイトから目で語られた。
「あ、いや……なんでも」
ばつが悪くイスに座った瞬間ひそひそと声が四方から聞こえる。
セカンドどうした? セカンドはツッコミで甲子園目指すことにしたのか? でもあいつ二軍だろ? いやどう考えてもあの頭はツッコミ『される』方だろ? 育毛して出直してこいってかんじ?
そんな声が聞こえてくる。
……ちなみに『セカンド』というのは俺のあだ名だ。この頭と風貌を見て最初に誰かが言った『二軍のセカンド』という言葉が反響に反響を呼び、短くまとめられ今の呼び名に至った。
正直、ひどい名だと思う。まだ、そんなに好きではないが本名の『仏』と言ってくれた方がいい。
だが、俺は負けなかった。挫けなかった。この逆境を力に変えた。
……というのは嘘で、実際のところはあだ名が早く決まった分、他のみんなより話しかけられる期間が早く、それらに普通に返していたらクラスでそこそこの地位を得ていた。……イロモノとして。別に何をしたって訳じゃないが。
ソレはソレとして、俺に向けられるニヤニヤ顔と怪訝な顔の混沌が渦巻くクラスの中、転校生のことなど眼中にないように授業は始まった。
◇
「さすがに迷惑だと思ってな。善良な一人間である君の学校生活を我々の手で壊すようなことは避けたかったのだ」
昼休み、俺は四人を屋上へこっそりと呼び寄せた。俺が女生徒四人と何かしてるなどという噂は立てられてもこまるからだ。
「わたくしは側に居たかったんですが〜」
「だーかーらー、大丈夫だって言ったじゃんかよー」
白虎ちゃんは家から持ってきた弁当とは別に、多分購買で売っていたサンドイッチをぱくついていた。……金は無いはずなのに。そいつは一体どうやって手に入れた? でもはむはむ食べてる姿がかわいいからよし。
「だいたいお前らは何でこの世界に来たんだよ」
そう、こんな一学生にまで化けてまでこいつらは何がしたいというのか。きっと目的があるはずだ。
「暇だから」
赤毛は即答した。
「玄武。理由を聞かせてくれよ」
俺は無視をした。
「実は、君に尊敬され、崇拝されるような高尚な理由はこれといって無い。ただ、なんというか……我々の存在は時間が何かと余るのでな。その余暇を楽しむための一環の行動という訳なのだ」
「なるほど、俺みたいな善良な一人間にはよくわからないけど、時間がいっぱいあるってのも大変なんだなぁ」
「おい無視すんな!」
「生き急がなくてはいけない人間共と違いますから〜」
「ははは……」
「無視……すんなよぅ」
「そういうわけで、宿を借りている身分でこんなことを言うのは気が引けるのだが、私達は私達で勝手に気ままにしゅご…………過ごすだけなので、仏君も気にせず毎日を過ごして欲しい」
「そうか、でもまあせっかくの縁だしみんなで楽しく過ごせればいいぜ!」
俺は台詞を噛んだ玄武さんのフォローも込めて満面の笑みでそう言った。こう、少女漫画で背景にキラキラのトーンが使われる感じで。
「はぅ」
青龍さんが変な声を出した。でもそれを突っ込むとまた怖いことをいわれそうな気もするので聞かなかったことにする。
「…………」
赤毛はなぜか体育座りで自分の膝をいじっていた。どうしたんだ、かまわなかったからいじけているのか? でも俺は無視することをやめないのだった。
「仏……くん。ちょっといい?」
俺らが話を弾ませてる内に俺の背後に忍び寄ってきた影はそう言った。
その声は今日の青空のように透き通っていて、本名で呼ばれた俺の耳が勝手に喜びを脳に伝達する。
俺が声の方に振り向いたとき、声の主は長いまつげ付きの星空のようにきらめいた目を恥ずかしそうにそらし、細く綺麗な両手を華奢な自分の体の前で組んでいた。
そう、コイツは……、
「よぉ。歩(あゆむ)なんかようか?」
藤堂歩(とうどうあゆむ)、俺の友達(男)だった。
「あの……その……、ちょっと、話が……あるんだけど」
「ああ、だからなんだ?」
「えっと……、他の人に聞かれると恥ずかしいし……、二人きりで話したいんだけど…………ダメ?」
「しょうがねえなぁ、わかったよ」
俺達は屋上の扉から出て、閉めた扉の前でそのまま話すことにした。意外にこの位置が人が一番いない。
「で、何があったんだ?」
「僕の……」
コイツまだモジモジしてやがる。二人きりだってのにここまで来るとちょっとイラッとする。
「二人だけなんだから早く言え、歩」
「僕の……僕のパンツが無くなったんだ」
「…………」
……………………。
…………ぱんつ?
「ぱんつ?」
「僕の……茶色のボクサーブリーフが無くなったんだ」
「ああ……ぱんつってパンツか。インナー的なあれなやつな。何かと思ったぜ。……え? パンツねぇの?」
「……うん」
歩のモジモジが加速する。
……コイツもしかして、今ノーパンなの? だからモジモジしてんの? モジモジ君なの?
「何でパンツがねぇんだ?」
「部室で褌(ふんどし)に履き替えて、綺麗にたたんでロッカーにしまっておいたのに部活が終わってみたら無くなってたんだ」
歩は茶道部である。部の方針で着物にはそれにあった下着を……ということらしい。正直意味わからん
……あれ? でもそれなら今褌はいてるんじゃないのか?
俺は何の気なしに歩の股間を見た。すると歩は自分の股間の前で組んだ手をぎゅっとにぎりしめ、頬を赤らめた。
…………いや、勘違いとかするなよ!? そんなんじゃねえから! 全然そんな目で見てねえからっ!!
「いや、お前今褌はいてるんじゃないのか?」
「制服に褌は……恥ずかしいから。誰かに見られたら……」
「見ねえよ! 大丈夫だよ! ノーパンの方が恥ずかしいだろ!?」
「そう……かも」
こいつはおバカちゃんか。
おバカでモジモジのバカモジ君。
……あんまり語感が良くないな。
「とにかくだ……放課後も一回探そう。他人が見たら出てきたなんてざらにある話だし
な」
「うん……わかった」
本人の勘違いで別の場所に置くということはある。でも今回の対象物の場合――ソレは考えにくいし――ああは言ったがやはり盗まれたと思う方が自然だろう。ただ、万が一そうじゃないとして……いや、そうだとしてもなおのこと現場は確認しておいた方が良さそうだ。
(盗みなんて……許せない!)
「え?」
「あ、バカ、白虎テレパシーはダメだって!」
「今は仏様にも聞こえているのですから」
屋上に繋がる扉の向こう側で今度は確実に耳で声を聞き取った。……あいつら。
俺は扉を勢いよく開けた。
「うわぁ!」」
「きゃぅ!」
朱雀と青龍さんの悲鳴が聞こえ、開いた扉の先には尻餅をついた格好の朱雀と青龍さん、そしてその後ろ側に立つ玄武と白虎ちゃんがいた。なお、白虎ちゃんは現在何も食べてはいないようだ。
「いや、これはちがうんだ……」
「何が違うんだ」
朱雀にチョップをした。
「ひゃぅん!」
「え!?」
なんかエロイ声をいきなり出したからびっくりした。
「変な声出すなよお前!」
「だって痛いことするから……」
え? コイツもしかして……M?
「それより、仏様はこの哀れな子羊殿の下着を盗んだ犬畜生にも劣る便所蝿共をぶち殺……成敗いたすのですか?」
「あ、いや……まだわからないから、とりあえず現場を見ようと」
それより仏……『さま』って? ……なんかこええ。くれぐれも便所蝿側にならないように気をつけよう。
「うむ、理に適っている思考だ。事件が起こった際にはまず現場検証が先決、その後情報収集、推理、そして事実と真実のすりあわせを行うのだな。……しかし『パン』を盗むとは、犯人は相当飢えているようだな。非人道的ではあるが、食物を使った罠を張ってみては?」
「パンじゃなくてパンツだよ玄武」
「………………え?」
玄武はきょとんとしている。そりゃパンじゃなくてパンツだよってなったらそうなる気持ちもわかるが、もう少し話をよく聞いて欲しい。
「ゆる……さない」
澄んでいて、かわいい声が響く。その声の主である白虎ちゃんが手に力を込めた瞬間、手の中にあった焼きそばパンはまるで機械から出るミンチ肉のようにブチュブチュッと指の間から絞り出された。もったいない!
「人のもの……盗むなんて、そんなの……許せない」
「いや……ほらまだわかんないし」
「許さない!」
いっそう勢いよく吹き出すミンチを見て、俺は自分の人を見る目のなさを恥じた。
…………この子やべぇ。
とりあえず放課後に茶道部に集まろうということになって放課後になったので教室から出た。午後の授業はつつがなく終わったが今日はやけ他人の視線をよく感じる。それにクラスの連中から「お前がそうだとは思わなかったよ」とか「お幸せに」とか「寺の子でそれって大丈夫なの?」とか聞かれて意味がわからなかった。
――途中、男子生徒が数人廊下に座ってたむろしていた。
こんなわざと邪魔になるように座る輩にはまずろくな奴がいない。ここから「先生、荷物半分持ちます」という奴がいたらそいつはきっと天使だ。もしくは悪魔だ。ということで顔を合わせないように通り過ぎることにする。
…………だのに。
「よぉセカンドくぅん」
男にそんな呼び方されてもなにもうれしくねぇよ。
「セカンドくぅん、愛しのカレとは順調そうだね? ギャハハハ!」
言ってる意味がまるでわからない。脳みそ茹であがってんのかこいつら? 相手するのもめんどくさいので無視して通り過ぎる。
と、その時。
「……っ痛ぅ」
俺は何かに躓いてこけた。……いや、こんな何もない廊下で何に躓かされたなんてのはわかってる。俺は躓いた足の先に振り向くと、奴らが大声を出して笑っていた。
「おいおい、いくらカレに会いたいからってそんなに急ぐなよ。学校でイチャイチャしないで夜の練習でしごいてもらえよ、彼氏のパンツでな、ギャハハハハハハ!」
――――汚ぇ笑い方だな本当にこいつら。……しかし、彼氏? パンツ? …………なんか知らんがもしかしてこいつら歩のパンツが無くなったこと知ってんのか? なんにせよとりあえず茶道部に行くか。こいつらの近くにいたくない。
しばらく歩くといつの間にか背後に四人がいた。
「仏様、お怪我はありませんか!? 痛いところはありませんか!? おかしな箇所があればすぐわたくしに申しつけくださいね。わたくしの力は多少の怪我も治すこともできますから、遠慮せずに使ってください」
「はい、いや、でも本当に大丈夫ですから」
「わたくしの仏様に何かあってからでは遅いのです! ……あのクソ豚共は本当に撃滅しなくてよろしいのですか? 今のわたくしなら腹部を切り裂いて肥だめより汚い奴らの臓物を引きずり出して縛り上げ神への供物にすることも造作ありませんよ?」
「だ、大丈夫ですから。ほ、ほら、仏の顔も三度といいますし、バカにされたり多少ちょっかい出される程度は許せますから」
「でもぉ」
そりゃ俺もむかつくけど青龍さんにここまでの剣幕でこられると逆に怒りもしぼんできた。……ていうか近い。さっきから近い。ボリューミーな胸とか綺麗な顔とかいい匂いとか堪能できるけど、なんか怖くて味わえない。とにかく屋上の後からなんかおかしい。
「仏君は器が広いのだな。それでこそ依り代たる存在だ」
「あたしならあんなことされた瞬間高温化した拳でバコーンだけどなっ」
「ああ、お前の湯たんぽパンチなら寒い冬も安心だな」
「なんだと!?」
(鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌鉄槌)
「…………」
なぜか某有名RPGに出てくるサイクロプスみたいな歩き方をしている白虎ちゃんはテレパシーで同じ言葉を連呼し続けていた。テレパシーが伝わらない周りの人はなんか変な歩き方してるかわいいとか思っているだろうが、俺にとっては寺に飾られている馬頭観音より怖い。いや、怖いと言うより……ヤバイ。
部室の近くまでやってくると、歩が先に着いていた。なぜか部室に入らず扉の横にある掲示板を凝視していた。
「よぉ。待たせたな」
「……っ!?」
歩はびっくりした顔をして。
――――俺から逃げるように走り去っていった。
「え!? ちょっ!? なんだよ!」
そんな涙で濡れたような瞳で………………いや、もしかして泣いていたのか? なんで、どうして?
「意味がわからん。…………ハァ!?」
歩が何を見ていたのか気になって掲示板を見てみたら、あまりのことに大声を出した。ていうかバカじゃねえのこれ?
……掲示板には歩のパンツが貼り付けられていて、それにマジックで書き足すことで相合い傘のように描かれていた。
そして相合い傘に描かれていた名前は。
――俺と歩だった。
「……そうか」
そういうことか……。全部わかったよ。クラスの奴らの発言も、廊下で言われた言葉も全部。
つまり、歩のパンツはしばらくここにずっと貼り付けられていたんだ。
何も悪い事してないのにものを盗まれて。
言われもないことを書かれてみんなに誤解されて。
――気の弱い奴がそれに耐えられるはずがないだろうが!
「……ふざけやがって」
掲示板を突く手に力がこもる。
――すると掲示板がまるで障子紙のように簡単に破れた。
「ええええええ!?」
手の感触は紙なのに音と見た目は木の破砕と同じだった。
「え、あ、お、ええ!?」
「今朝説明したではないか」
玄武が冷静な態度で俺に話しかける。
「君には私達の力が作用する。それは『君がその時強く望んだことについて最適の力が』だ。現状、今の君には白虎の力が適当と判断されたため行使された。今後も、私達がこの世界に現在している限りこのような現象は続くだろう」
「……なるほど」
怒りも興奮も驚きも玄武の雰囲気と言葉で収まってくる。
そうか。そういえばそんな話…………いや。
「いやしてないよそんな話!?」
「えっ?」
そんな話をされた覚えは俺には全くこれっぽっちも無かったのだった!
「むしろお前は家とか学校での俺の生活とか事細かに聞いてきたじゃん! ずっと喋ってたのは俺のほ……」
「……うるさい」
「……えっ!?」
「とにかく君は私達の依り代となった時点でもう普通の人間ではないということだ。慎重に行動することを推奨する」
「は……い」
……えっと。今、怒られたよな俺?
ね?
「ヘイセカンド! よぉセカンド!」
快活でノリのいい女性の声が俺を呼んだ。
「なんだよ牧原」
「美女を侍らせて茶道部の真ん前でなにやってんだねぃ? お茶でも点(た)ててあげるのかねぃ? でも君茶道部じゃないよねぃ?」
牧原巴(まきはらともえ)。茶髪長身の彼女は髪をばたつかせながら質問攻めをしてくる。そんな彼女は歩と同じ茶道部だ。だが、その容姿はどうしても茶をたしなむようには見えない。
「別にそんなんじゃねえよ。ただちょっと……友達を傷つけられただけだ」
「なぁるほぉ。もしかしてそれってぇのはこの掲示板のことかいねぃ?」
「……ああ」
掲示板には歩のパンツを俺が取ったあとの、相合い傘の残骸だけが残っていた。俺と歩の名前。見てるだけでやり場のない怒りが再び沸いてくる。
「あっち(私)、それ書いたの知ってるよ?」
「マジか!」
「おぅおぅ。あっちのクラスの杉浦とそのダチ共だねぃ」
…………杉浦。
「――――そうか、サンキュー。探す手間が省けたよ。これからちょっとそいつのところに行くわ」
「どこにいるのか知ってんのかぃ?」
「…………ああ、さっき廊下で会ったからな」
茶道部に来た道を戻る。徐々に日は落ちてきている。廊下を歩く生徒も大概学生鞄か部活動用の荷物を持っている。
「お前らはジャマすんなよ。っていうか離れてろ」
「いえ、そうは参りませんわ! 仏様に何かあっては大変です。その前にわたくしが糞蝿共をグチャグチャにして差し上げます」
「青龍さん、これは俺の問題だ。それに…………あなたたちがもし傷ついたら、イヤだ」
「ズキュゥゥゥン」
かわいらしく組んだ手を口に寄せ、顔を赤らめながら野太い声を青龍さんは出した。声と仕草がちぐはぐだ。俺にはこの人がわからない。
「本当によいのか? 仏君」
「ああ、ていうか……」
(殺生殺生殺生殺生殺生殺生殺生殺生殺生殺生殺生)
とりあえずこの殺人鬼(ちびっ子)を止めておいて欲しい。青龍さんは大人だから口ではあんなこと言っててもわきまえてるだろうが(多分)、白虎ちゃんは学校を本当に鮮血に染めそうだ。
「俺には……俺には玄武しか頼める人が居ないんだ、頼む!」
「え、あ……わ……わかりもうした! そこまで言うのであれば、拙者貴殿のための剣となりてあなたの願いを守りましょうぞですよ!」
とりあえずこれで何とかなる……といいが。
「帰ったら、一緒に飯食おうな、朱雀」
空気だった朱雀にも一応声をかけておく。何回言いたそうなのにうつむいててさすがにいたたまれなくなったので。
「う、……うん!」
朱雀は驚いたように顔を上げて返事をした。
よし、準備は整った。
さっきは出会って不運極まりなかったが、今度は居てくれてラッキーだった。神様仏様にありがとうと言いたい。いや俺のことじゃねぇよ?
「最低だな、お前ら」
そう言った途端、さっきと同じように廊下でだるそうにしていた奴らは大声を上げて笑い出した。
「え、なに? もしかしてやっと初めて見たの? じゃあ今までずっとあのままだったのかよチョーウケるわ!」
杉浦という男がバカにしたような顔で笑いながらこちらに言ってくる。
「歩は泣いて帰ったよ」
怒りを言葉に乗せて言った。だが奴らはさらに笑い声を大きくする。
そんなに楽しいかよ、人が傷ついていることが。
「じゃあ追いかけてやれよ。彼氏だろ? 慰めてやれよ」
「あ、慰めると言えば俺いいもんもってるわ。傘よりいいもんだから大事に使えよ」
何かを顔に投げられ、驚きながらもキャッチする。
手の中には、コンドームがあった。
「あ、でも男同士なら意味ねえか!」
ギャハハハと奴らは笑う。品もなく、汚く、うざくて、耳障りで、憎々しく笑う。こんな奴らのせいで歩が泣くことなんて、無い。
「よーしそろそろゲーセンでも行くべー」
「彼氏によろしく、優しい冴えないセ・カ・ン・ド・君、ギャハハ」
だらしなく立ち上がり、俺と反対側にある玄関へと向かおうとする。
「話は終わってねぇよ」
「知るか、バーーーーカ」
「……」
――もしも、…………仮にもしも、歩の前で地面に這いつくばって懺悔したなら、許してやらないこともなかった。でも、まあ無理だよな。
そう、無理。無理むりムリ。カンペキに、無理!
ホントもう無理過ぎてイヤになる。
…………。
………………ぶちのめす。
「仏の顔も三度。まあ百歩譲って今回のことは許してやらねえこともねぇことを検討する方向で調整することを善処する。……だがな」
右腕に力を込める。
俺の意志に答えて、肩、腕は強化される。
右手に意識を集中する。
俺の願いに反応して手の中の物は硬質化、及び高温化する。それに反して手は低温化し皮膚を守る。
目標……こんなにでかい的はない!
「友達(ダチ)傷つけられて一度だって我慢できるかボケがああああああああああ!
!!」
俺は、
――――『歩のパンツ』を、投げつけた!
炎を出し燃え上がる鉄球と化したパンツは轟音をもって奴らに向かっていった。
「えっ?」
誰かひとりがそれを目撃した気がした……が、それはもう残像で――、
――本体は予想より浮き上がり奴らの頭上にちょうど括り付けられていたつり下げ看板へ破壊音と共に衝突した。
「う、うわあああああ」
つり下げ看板は幸運にも――奴らにとっては不幸極まりないが、とても大きく、奴らまとめてひとりも残さず下敷きにした。
「天誅」
そう言った俺は冷静になると周りの生徒に聞かれた今の発言の恥ずかしさに耐えかねて家へと逃げ出した。
後日、歩は登校に復帰した。
さすがにふさぎ込んでいたが「俺と仲良しだとみんなに思われるのがイヤなのか?」と言うと慌てたように否定して次の日から一緒に登校することになった。
……歩の俺を見る目が少し変わった気がするのが気がかりだが。まあいい。
ここでお知らせがある。
俺のあだ名が変わったのだ。不良共相手に果敢に立ち向かいコテンパンにしてしまった俺なのでそれも当たり前だろう。
俺は教室のドアを開ける。
「うぃーっす」
「お、セカンドウイーッス」
「セカンドおはよー」
……何も変わって無ぇじゃないかコノヤロウ!
そう思う人もいるかも知れないが、確かに変わったのだ。
どう変わったのか答えを言ってしまうと、『二軍のセカンド』から『一軍のセカンド』になった。つまり呼び方は今までと一緒。
この間の剛速球パンツ事件でものすごい球を投げたのはいいが、狙いを思いっきり外してしまったので「すげーけどやっぱりピッチャーには向いてないね」ということになりこうなった。ちなみに最初につけたのは牧原巴だ。あのアマ許さん。せっかく『エース』とかになりそうだったのに。
「あたしらの出番が無いじゃないかコノヤロウ! どうしてくれんだ!
昼休み、屋上にて奴隷の母作成の弁当を五人――いや、一人と四匹? が、囲む。
「しらねえよ」
「あたしたちが主人公だろが! あたしが格好良くズバーンしてゴバーンするところだろ!」
「朱雀、私達はこの世界ではただのシンボルにすぎない。必要以上の存在誇張は避けるべきだ。そのかわりに私達の代わりを依り代であるところの仏君がやってくれるのだから。あ、そのタコさんウインナーを取ってください」
卵焼きを食べながらまくし立てようとする朱雀を玄武がたしなめる。
「そうですよ〜。主人公は仏様です。わたくしたちは主人の勇士をただ己の眼球に焼き付ければいいのです。仏様、はい、あーん?」
「いや、じ、自分で食べますので」
「へーんだ、なんだよ鼻の下伸ばしてよ―。いいもん飯食うし。ムシャムシャムシャ」
青龍さんはひたすらに俺に尽くしてくれていた。まるでツンデレのデレ期のように。いやいや、何か、何か裏があるに違いない。だって俺何もしてないし、漫画とかゲームみたいに主人公のとある一面を見て好きになるとかそんなことはあるわけ無い。ぜったいなんかあるよこれ超怖えぇ。
「……」
白虎ちゃんは黙々と、ただ黙々と白米を。白米だけをひたすらに食べ続けていた。
……そういえば。
白虎ちゃん、ありえないぐらい怒ってたのに何一つ手を出してこなかったな。あんなにハイパーマジギレタイムだったら制止を振り切って柱の一つぐらい担いで特攻してきそうなもんなのにな。
「そういえば白虎ちゃんは玄武が抑えてたの?」
「いや、私はなにもしていない。というか、その必要はなかった」
「へ、そうなの?」
「虎は……一度決めた主人には従順なもの。主人の生活の場を破壊するような行為などもってのほかですわ」
「俺、なんか決められるようなことしたっけ?」
「白虎はテレパシーを使えます。深いつながりのある同士なら、多少の心の機微や想いも察っせましょう。あぁうらやましぃでぇすわぁ〜」
「……」
「……」
「……プイッ」
白虎ちゃんと少しの間目が合ったが、すぐそっぽを向かれてしまった。気まずいのか食べるスピードがやけに速い気がする。
…………なんという。
………………なんというかわいさ! そしてスピードおかわり!
「しかしまぁなんつうか、これから大変だなぁ」
「なんで?」
「なんでって四人養うだけでも大変だっつうのに変な力までもらっちまって俺の学校生活が激しく不安だ」
――でもまあ、
「とりあえず飯食わせてくれればあたしは満足、あとは……」
どっちみちこの四人とはしばらく離れられないらしいし、……なら、ポジティブに考えて楽しく過ごせるように精々がんばるか。
「これからも遊んでくれ、よろしく!」
楽しそうに赤い髪の少女は言った。
「死するまでお側におります、仏様」
うれしそうに青い髪の少女は言った。
「…………よろ……しく」
恥ずかしそうに白い髪の少女は言った。
「……何を言うかド忘れしたがとりあえずよろしく」
無表情で黒い髪の少女は言った。
…………そして俺は。
「おう、よろしく!」
――――俺は、超笑顔でそれに答えた。
「はうぅ!」
――青龍さんは鼻血を出して倒れた。
「……しまらねぇな」