小さな願い
私は何のために生きてきたんだろう。
ただ生まれて、何を目的にしたらいいかも分からずにさまよって、甘い蜜を吸って生きてきた。
周りにいる自分と同じように生きている物も、きっと広い世界から見たらとてもちっぽけだ。
ただ、生きるためだけの人生。
それに一体何の意味があるんだろう?
私は、何かの役に立つんだろうか? 誰かのためになれるんだろうか?
淡々と生き続ける中で、そう疑問に思うこともあった。
でも、繰り返される毎日は、外は暑いはずなのに私の脳を凍り付かせ、思考を吸い取ってしまった。
そのうち、考えることもやめてしまった。
いや、元からそんな考えはなかったのかもしれない。だって私は、何かに寄りかかることしかできない。自分の周りに寄生して、世界に寄生する。ただ『生きろ』という本能だけが私に強く命令し続けた。
『自ら死ぬ』という選択を考えることさえ私には許されない。自分の中にガチガチににこびりつく本能。
とても……辛い。
私はただ生きたいんじゃない。何か意味のあることをしたいんだ。誰かに価値のあることをしたいんだ。
もう、本当に生きるだけなのはつかれた。
「あっ……」
そのとき、一つの考えを思いつく。
そうだ、ここから離れれば何かが変わるかもしれない。どうせ価値のない命なら、死ぬ前に一度は戯れても良いかもしれない。
そうして、わたしは住み慣れた場所からふらふらっと離れ、違う世界に飛び出した。
外の世界はあまり変わらなかった。延々と続く田んぼ(緑)、どこにいても私を照らす太陽(光)。私は、私を待ってるかもしれない何かのために必死で進み続けた。
進み続けて、目の前に大きな壁みたいな物が見えたとき、いきなり私の中が熱くなった。
初めての感覚、今までに味わったことのない衝動。
暖かい温もり、今までとは違う何かが体中を支配する。
もしかしてこれが、私の探していた物なんだろうか?
この衝動が、もしかしたら私を変えてくれるのかもしれない。
目の前の巨大な何かは、ちっぽけな私を気にすることもなく悠々と移動している。
私は、私を変えてくれるかもしれない何かに、必死になって飛びついた。
そしたら、いきなり周りが暗くなって……
パチンッ!
「お母さん! 蚊を退治したよ!」
「あらそう、蚊取り線香新しいのにしたからつけなさい」
「わかったー」
タタタタタ。
多分、『何か』を見つけたときに、私はもう私じゃなくなっていたのだろう。結局、最後まで私は自分の本能のままに生きることしかできなかった……。
……もし、生まれ変われるのなら。
もし、自分の生き方を自分で決められるのなら。
きっと……誰かを幸せに出来るような、何かに価値を見いだせるような、そんな風に生きられる何かになりたい。
神様。私なんかの小さい願いだけど、もしいるのなら、私一生懸命頑張るから聞いてください。
じゃあね、小さな私。
おわり