あきつ丸とお花見

「あ、早いねあきつ丸」
「提督殿、お疲れ様であります」
「いやいや、疲れるのはこれからだよ。これから数時間ここにいなくちゃならないんだから」
「そう……でありますね。しかしお花見の場所取りというのはかくも大変な作業でありましたか」
「良い戦果(眺め)を得るには準備が必要なんだよ……なんちゃって」
「なるほど……。さすが提督殿でありますね」
「真面目か! でも面と向かって言われると照れるな……あ、温かいお茶持ってきたんだけど飲む?」
「え、そんな自分に気を遣って頂かなくとも……」
「どうせ一人じゃ飲みきれないし、飲んでよ。ね?」
「……では、ご相伴にあずかるのであります」

「……」
「……」
「あきつ丸」
「何でありましょうか? 提督殿」
「うちの鎮守府に来てしばらく経つけど、どう?」
「どう……というのは?」
「他の子と仲良くなったかなって言う話。あきつ丸は陸軍の船だから色々勝手も違うだろうし変に孤立してないかなと」
「孤立……でありますか。……いえ、確かに私が覚えている軍の雰囲気とは大分異なりますが、これはこれでとても良い雰囲気であると思うのであります。他の艦娘の皆様も、こんな自分に非常に良くして頂いてるのであります」
「そっか。まあ普段見ててわかってたけどねその辺は。そういえば特に仲の良い艦娘とかっているの?」
「そうでありますね……。最近は、舞風殿によく話しかけてもらっているのであります」
「舞風か。ナイス判断!」
「彼女の口癖でありますね」
「踊ろう踊ろうって五月蠅くないか?」
「自分は舞踊のような華やかな遊楽とは無縁でありましたので、彼女の期待の応えられず申し訳ない」
「真面目に受け応えなくても良いよ、いつでもどこでも踊ってるんだから。まったく、出撃前にも踊ってて緊張感がないというか」
「……提督殿」
「ん?」
「かの織田信長公は出陣前に『敦盛(あつもり)』という舞を踊ったそうであります。己を奮い立たせる舞。舞風殿もきっと……」
「そうなのかなぁ。うーん、よくわかんないけど」
「舞風殿ともう少し近しくなれば提督殿もわかるかもしれません」
「まあ、あきつ丸がそれだけ舞風と仲が良いって言うのはうれしいことだね。うーん、お茶が進むなあ、ごくごく」
「提督殿、気付いておられると思いますがこのお茶は……」
「うん知ってる、これお酒入ってるね。まったく誰が入れたんだか、まぁた隼鷹かなぁ。でも酒の肴になる話も聞けたし、隣にあきつ丸も居るしとっても美味しいよコレ」
「提督殿、そんなに飲まれては……」
「ごくごく……」

「うひぃ。あきつまるぅ〜ポテチとポップコーンどっちが好きぃ?」
「提督殿、それはポップコーンだとさっきから二十回は答えて……。完全に酔っておりますな」
「酔ってないって〜。……じゃあ舞風と俺どっちが好きぃ?」
「え!? そ、それは……答えられません」
「なんだよもう真面目だなぁ〜。まあ俺はそこが好きなんだけどね〜」
「あ!? 提督殿!? ……そんなとこを触っては」
「あきつ丸は肌も綺麗だし性格も素敵だしホント良いよね〜」
「提督殿……やめ……あ!? そこは……だ……」
 ガンッ!
「ぶべら!」
「ハァ、ハァ……助かったのであります。これは……おたま?」
「桜舞う夜におどらにゃ損損〜♪ 老いも若きもおどらにゃ損損〜♪」
「あ……舞風殿……」
「おつかれあきつ丸〜。一緒に踊る?」
「いえ、自分は……。それより舞風殿、その格好は?」
「あ、これ? 山城さんに小さいサイズの同じ服貸してもらったんだぁ。何で持ってるんだろうね? ま、いっか! そーれワン、ツー♪」
「……」
「夜桜に囲まれて踊るのも気持ちいいよねー」
「……提督殿、は気絶中か」
「うーん……」
「提督殿、桜の中で舞う舞風殿はとても綺麗であります。……自分、こんなに綺麗な物を見たのは生まれて初めてであります。提督に見出され、この艦隊に入らなければ見られなかった景色でありましょう。提督には感謝であります。これからも……幾久しく、よろしくお願いしますね……であります」
「……」
「今までのお礼に……提督殿が目覚めるまで膝枕をするであります。こ、これはあくまでもお礼なので、今後はそう易々とはできないのであります。こんな時に気絶とは残念でありますな。でも、自業自得で――」
「あ、あきつ丸が提督の膝枕してるのをはっけーん! イラストにしちゃおーっと!」
「秋雲殿!? なぜここに!?」
「舞風の付き添いだよ! でもこんな事になってるなんてねー。こりゃ薄い本が厚くなるわ―!」
「あ、あの! このことは内密に!?」
「うーんどうしよっかなぁー?」
「秋雲、そのへんにしておけ、かわいそうだ」
「はーい」
「日向殿……」
「うん、夜桜は綺麗だな。あきつ丸、寒くないか?」
「いえ、大丈夫であります」
「そうか、では、夜が明けるまでゆっくり桜と舞風の踊りを楽しむとしよう」
「はい」
 …………提督殿。自分の心は今、みんなに囲まれ、提督から頂いた飲み物のようにとても暖かいであります。
「提督ー、そろそろ嘘寝してないで起きなよー。あきつ丸の足しびれちゃうし」
「……ばれてた?」
「バレバレ」
「うわぁー!」
 ドゴォ
「ギャアアア!」
「うわー! あきつ丸が提督の頭をアイアンクローしたまま床にたたきつけた!」
「うん、この前私が教えたとおり綺麗に決められたなあきつ丸」
「教えたのは日向さんだー! 薄い本から熱い(誤植ではない)格闘本にチェンジだー! いやぁホントはかどるわー」